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2007年08月の記事一覧

2007.08.21 朝日新聞に記事掲載されました

思い継ぐ娘 歯照合に新技術
朝日新聞(2007.8.21)

災害時に役立てようと、歯のレントゲン写真の照合技術を開発した小菅栄子さん(右は父の篠原瑞男さん)=高崎市上中居町の篠原歯科医院で

 高崎市の歯科医師、小菅栄子さん(36)が、大規模災害時の身元確認に役立てようと、歯のレントゲン写真の照合技術を開発した。非常勤講師をしている神奈川歯科大や、東北大の研究室との共同研究で、11月に米国・シカゴで開かれる北米放射線学会で発表する。きっかけは22年前の日航ジャンボ機墜落事故。遺体の身元確認に携わった同じ歯科医師の父、篠原瑞男さん(62)から娘に思いが引き継がれた。

8月12日。墜落現場の上野村の「御巣鷹の尾根」で、「8・12連絡会」事務局長の美谷島邦子さん(60)が小菅さん親子に初めて声をかけ、「いつもありがとう」。毎年登山する二人の姿に気づいたようだった。

 事故が起きた夏、篠原さんはレントゲン写真のある部屋と遺体安置所を何度も行き来をしては、身元確認をした。すべて手作業だった。

 「風化させたくない」との思いから、医院のスタッフを連れて毎年、慰霊登山を続けてきた。小菅さんも大学卒業後、ほぼ毎年登った。

 小菅さんは、電子化でより素早く正確な照合ができると考え、コンピュータープログラムを開発した。身元の分からない人たちの生前の写真をデータベースに登録し、遺体の写真を電子データにして照合、似たものを探し出す。写真にはゆがみや伸縮があるため照合が難しかったが、指紋照合の研究もしている東北大の協力を得て、ひずみの補正に成功した。

 小菅さんがこの研究を始めたのは約10年前。事故後に検視警察医になった父に同行して高崎署で検視の様子を見る中で、技術を思いついた。

 背中を押される出来事もあった。02年の慰霊登山で、事故機の故高浜雅己機長の妻淑子さんに偶然出会った。淑子さんのもとに帰ってきた「夫」は、5本の歯。だが、本当に夫のものなのか、それまで17年間信じられなかったという。

 小菅さんらは、淑子さんを医院に招いて正確さを説明した。歯で身元確認できるのは当たり前と思っていたから、そんな気持ちを抱いた人がいたことがショックだった。同時に遺族の思いをより深く感じた。

 歯の照合プログラムは今後も改良を続ける。今は写真1枚の照合に約3・6秒かかり、正確さにも向上の余地がある。

 「大切な人を亡くした時に、早く家に連れて帰りたいというのが家族の思い。できるだけ早く完成させたい」

2007.08.19 東京新聞に記事掲載されました

歯のエックス線写真で身元確認ソフト開発
日航機事故遺族の声が後押し

東京新聞(2007.8.19)

 十二日に発生から二十二年を迎えた一九八五年の日航ジャンボ機墜落事故をきっかけに、高崎市の歯科医師が歯のエックス線写真による独自の身元確認ソフトを開発した。身元不明者の写真を正確に、早く一致させられるのが特長。十一月に米国シカゴで開催される国際会議で発表する。歯科医師は「大事故の際、多くの遺体を確認せざるを得ないご遺族の心痛を少しでも和らげられれば」と念願している。 (菅原洋)

 この歯科医師は同市高関町の歯学博士小菅栄子さん(36)。小菅さんは七年ほど前に県内で初めて女性歯科医師として検視警察医に。父の篠原瑞男さん(62)も歯科医師だ。

篠原さんは日航機事故の際、三日目から約一週間、藤岡市の遺体
安置所に通い詰め、数百体の身元確認に取り組んだ。五百二十人が犠牲となった大事故。この父の姿を見て、当時既に歯科医師を志していた中学生の小菅さんは「歯科医師に身元確認という重要な仕事がある」と知らされた。

 十年ほど前に歯科大を卒業すると同時に身元確認ソフトの研究を始め、その当時から父親らとともに「御巣鷹の尾根」に命日の慰霊登山を毎年続けている。

 そんな二〇〇二年の慰霊登山で、小菅さんにソフトの開発を後押しするある出来事が。小菅さんらに高浜雅己機長=当時(49)=の妻淑子さんが「夫とされる五本だけの歯が本物なのか、(その当時までの)十七年間悩み続けている」と打ち明けたのが始まりだった。

 「歯による身元確認の説明責任が果たされていなかった」と衝撃を受けた小菅さん。小菅さんらは後日、淑子さんを高崎市内の歯科医院に招き、歯による身元確認の確実性を約一時間かけて丁寧に説明した。納得した様子の淑子さんの目から涙があふれる。「ソフトの開発を早く実現させなければ」。その時、小菅さんは固く決意をした。

 〇六年からは開発に東北大が協力。同大は画像同士の位置を正確に合わせ、類似性を数値にする「位相限定相関法」で進んだ技術を持つ。生体認証にも多く利用されているこの方法を取り入れ、ソフトの開発は大きく前進した。

 小菅さんによると、現在の歯による身元確認は主に写真を一枚ずつ手作業で判断している。開発したソフトはまず、障害となる写真のひずみなどを補正。身元不明者の写真と生前の写真が入ったデータベースを照合し、類似性の高い候補を絞り込む。最後に専門家がいくつかの候補の中から精査する。小菅さんがソフトの精度を確認したところ、例えば三千六百回の照合作業では、うち5%を精査するだけで済む結果が得られた。この開発成果は既に今春、国内で開かれた三つの学会で発表している。

 小菅さんは今月十二日の慰霊登山でも淑子さんに会い、ソフトの開発を資料を手渡して報告。「御巣鷹の“昇魂之碑”の前でもソフト開発といういい報告ができた」と感慨を込めている。

2007.08.10 上毛新聞:Takataiに記事掲載されました

歯のX線写真で身元確認
御巣鷹の教訓生かす

上毛新聞:Takatai(2007.8.10)
 日航ジャンボ機が上野村の御巣鷹山に墜落して間もなく満22年になる。500人を超える人が犠牲になり、多くの医師や歯科医が犠牲者の身元確認に携わった。その教訓を生かそうと、高崎市高関町の歯科医師、小菅栄子さん(35)は、「歯のエックス線写真による身元確認システム」を開発した。大規模災害時における身元確認がスピーディに行えるとあって、学会などで発表され、関係者の注目を集めている。 小菅さんが同システムの開発に興味を持つようになったのは10年ほど前からで、検視警察医を勤める父親の篠原瑞男(62)さんの影響が大きい。

  同市上中居町で歯科医院を開業する篠原さんは、墜落事故の際に身元確認作業に携わった。以来、毎年8月12日に御巣鷹山へ慰霊登山をしている。登山に同行するようなった小菅さんは、偶然出会った遺族から歯による身元確認の疑問を打ち明けられ、大規模災害時に役立つ確認システムを作りたいと考え始めた。
小菅さんは7年前、女性歯科医として県内で初めて検視警察医になった。検視活動を通して生まれた強い使命感が、システム作りへの思いをさらに後押ししたようだ。

負担軽く、時間短縮

 指紋や歯による身元確認は、大規模災害時に極めて有用な方法で、既に指紋を用いた自動的な確認システムは開発されている。しかし、歯による身元確認はカルテやレントゲン写真に基づく手作業に頼っており、災害の規模が大きくなるほど作業時間は増え、誤認の危険性も増している。
  全国の歯科医院は現在、6万5000を数え、そこで撮影される歯科エックス線写真は年間8000万枚に上る。わが国の歯科受診率は非常に高いことから、エックス線写真による身元確認システムが自動化されれば、災害現場で身元の確認作業にあたる歯科医の負担軽減と時間短縮ができ、照合精度も高まると小菅さんは考えた。

変形補正し正確に

 1人でコツコツ研究を続けてきたが、昨年から神奈川歯科大の鹿島勇教授、東北大大学院の青木孝文教授の各研究グループの協力を得て、成果は大きく前進した。
  これまで歯のエックス線写真を用いた身元確認では、撮影時に生じる幾何学的は変形(位置ずれ、回転、拡大・縮小、ひずみなど)が原因で、自動的に照合することは難しいとされていた。撮影のたびに歯科医師が装置を配置するため、エックス線の照射角度が異なることや、指でフィルムを押さえ付けることでフィルム自体が変形してしまうためだ。
  開発したシステムは、こうした変形を補正し、本人確認を正確にするために、位相限定相関法を利用した。この方法は、画像と画像の位置を正確に合わせることができる上、どれくらい類似しているかを数値で正確に表すことができる。既に、バイオメトリクス認証(顔、指紋、筆跡などを用いた生体認証)で、その有効性が確認されている。
  小菅さんは開発したシステムの性能評価をするため、歯科治療の前後で撮影されたエックス線写真60人分、120枚を生前・死後と想定して照合する実験を行った。やり方は、治療後の写真を1枚入力し、データベースに格納されているすべての画像60枚と照合し、入力画像に対する候補リストを作成した。同じように1対60の照合を入力画像の枚数分(60回)だけ繰り返した。
  この結果、照合スコアが最も高かったものには、本人画像が87%含まれていた。また、上位3番で識別率が100%になったことから、候補リストの上位3番までに必ず本人の画像が含まれていることが分かった。つまり、システムを利用することで、そのうち5%を照合するだけでよく、実用化されれば確認作業の負担が大幅に軽減されるという。

11月シカゴで発表

 小菅さんはこのシステムについて、4月から5月にかけて開かれた日本法歯科学会、日本歯科放射線学会、日本法医学会でそれぞれ発表した。また、11月には米国のシカゴで開かれる世界最大規模の放射線に関する国際会議RSNAで発表することになっている。
  「まだ実験的な段階であり、これからも性能や処理速度、使い勝手などを改善していきたい」と小菅さんは話す。娘の研究を見守る父親の篠原さんは「地震をはじめ大規模災害がいつ発生するか分からない。その時、開発したシステムは大きな力を発揮すると思う」と言う。
  篠原さんは検視警察医としての功績が認められて今年5月、県総合表彰を受けた。そんな父親の背中を見て育った小菅さんの研究成果に期待が高まっている。

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