
『救命―東日本大震災、医師たちの奮闘』
海堂 尊著
抜粋
震災から二カ月も経過してくると、遺体の腐乱も激しくなり、歯ぐきから歯が抜け落ちて正確なチャートが取れなくなってきました。
歯がまだ残っているときは歯の形だけでなく、歯石が付いているとか、歯の磨り減り具合で咬み合せが分かるとか、そんなことも情報になるのですが、歯が無い状態になったらデンタルチャートでは情報が不足になってしまいます。
そういうときにはX線が役に立ちます。
たとえばX線で1本でも特徴的な箇所の写真を撮るとか、歯がなくてもX線で根の治療箇所が分かれば、生前の治療で冠をかぶせるために根の治療をやったことが判明するわけです。
初めは遺体の数が多くて時間もなかったので、写真やX線撮影は必要ないと言っていましたが、時間が経ってからの検死にとってはX線撮影が大きな頼みになりました。
これを助けてくれたのが、群馬県検死警察医の小菅栄子先生でした。
小菅先生は、お父様が御巣鷹山の日航機墜落事故での検死に尽力されたことがきっかけで、ご本人も身元確認の仕事を志されたという方です。
X線の専門家でもある小菅先生には、今回のような災害現場で、どのようなX線撮影装置を使用すればよいか、また、どのようなルートで機材を調達すればよいか、さらには、現場でのX線撮影の際の放射線防護についてどのように対策すればよいかなど、さまざまなことを指導していただきました。