お知らせ

お知らせ一覧

2011.11.11 海堂 尊氏の書籍で、院長の小菅栄子が紹介されました

『死因不明社会2 なぜAiが必要なのか』
海堂 尊著

抜粋

1985年8月12日、日航機が群馬・長野県境の山中に墜落した。遺体は激しく損傷していた上に暑さが腐敗を進行させ、顔や指紋による身元確認は難しかった。
当時はまだDNA鑑定技術は確立されていなかった。
歯は死後変形が少なく身元確認に有用だ。
このとき全国の歯科医から取り寄せた歯のX線写真と遺体を目視で1枚ずつ照合する、気の遠くなる作業が続いた。
約3ヵ月の期間と膨大な人員を要し、最終的に520遺体のうち518遺体の身元が確認された。

群馬の歯科医師、小菅栄子の父・篠原端男は地元の歯科医として、遺体の身元確認作業に携わった。
中学生だった彼女は、歯科医師に歯の治療以外に身元確認という役割もあることを知った。
1999年、歯のX線写真を自動照合する身元確認システムの研究を始めたが、当初は自動化が困難だった。
2002年から東北大学の青木孝文教授(情報工学)らと協力し、生体認証に多く利用されている「位相限定相関法」という超高精度画像照合技術を歯に適用した。

これによりX線写真のずれやゆがみを自動補正し、類似性の高い候補者を5%にまで瞬時に絞り込めるようになった。
歯科医の負担を大幅に軽減するこのシステムの原理は2007年に発表された。
誰が巻き込まれたかわからない地震などの天災やテロ事件では、生前X線写真を集めるのが難しい。
一方、日本の歯科受診率は高くX線写真も年間9000万枚以上は撮影されている。
これを生した東日本大震災では、地震と津波により現地歯科医院は倒壊し、診療録やX線写真が失われた。

身元不明社会、生死不明社会にしないため、大量検視に備えて歯のX線写真のデータベース化と緊急時の迅速な情報提供体制を整えておく必要がある。

2010.09.01 産経新聞に記事掲載されました

「もっと迅速に出来れば」
産経新聞(2010.08.08) 毎年、「御巣鷹の尾根」への慰霊登山を続ける女性がいる。高崎市内で歯科医院を開業する小菅栄子(38)だ。小菅の父、篠原瑞男は歯科医師として当時、遺体の確認作業に携わった。

  気温が40度にも達する暑い夏場の体育館で、父は連日、「早く遺族の元に返してあげたい」と次々に運び込まれる遺体と向き合った。

  当時、中学生だった小菅は毎晩、腐臭を染み込ませて帰宅する疲れた父の背中に「歯科医の使命感を垣間見た」という。

  自らも歯科医師の道に進んだ。
父と毎年、慰霊登山を続ける中で、ある考えが頭をよぎり始めた。
  「乗客名簿が残されている旅客機でさえ身元の確認には約2カ月半を要した。名簿がなければどうなるのか」

 確認作業には、遺体の歯一本一本の状態を観察、記録して生前の資料と照合する手作業を踏むが、「もっと迅速に確認できれば、遺族の負担も減る」。
 コンピューター技術を身元確認に取り入れ、生前と死後のレントゲン写真を自動的に照合させる研究を約10年前から始めた。
X線の照射角度によって画像にひずみが生じ、生前と死後の歯型の画像を一致させるのは簡単ではない。それでも、約3年前に東北大の青木孝文教授と協力。指紋照合などに応用されている手法を取り入れ、技術は着実に進歩している。
  小菅は「事故から四半世紀。コンピューター技術も大きく進歩し、性能も上がった。7割くらいは完成しつつある」と話す。

  8年前、父らとの慰霊登山で、ある女性を知人から紹介された。女性は高浜雅巳機長=当時(49)=の妻(66)だった。
  高浜機長の遺体は歯が5本だけしか見つからなかった。「それ(5本の歯)を渡されても…。大事に供養はしましたが、『本当に主人なのか』といまだに納得はできていません」。妻は事故から17年間、抱え続けた心情を打ち明けた。
  小菅は「17年も苦しめていたなんて…。歯型は確実性から『一番理解される』と思っていた。歯科医におごりがあることを痛感させられた」と語る。
  後日、父は、機長の妻を自宅に招き、歯型鑑定の正確性を説明。「これで胸のつかえが取れた」。妻は涙を流したという。
  事故を知る父は今年5月に他界。今年の慰霊登山は、少し違う気持ちで臨む。
  災害やテロ。名簿もない人が突然巻き込まれる大惨事も予想される。技術向上に加え、各医院に散逸するレントゲンなどの情報を集める制度の確立も求められている。小菅はこう言う。「事故を経験した父ら先輩たちの志を私たちの世代が継ぐときが来た」

2010.09.01 読売新聞 夕刊に記事掲載されました

歯のX線写真、自動で照合…
群馬の歯科医ら身元確認用システム
日航機事故で奔走、父の苦労きっかけ

読売新聞(2010.8.10)

 身元不明の遺体の確認を迅速化するため、生前に撮影された歯のエックス線写真を電子画像でデータベース化し、遺体の歯の画像と自動照合するシステムが、実用化に向けて動き出そうとしている。

 開発者の一人は群馬県高崎市の歯科医小菅栄子さん(38)。警察歯科医を務めた亡父が25年前の日航機墜落事故で身元確認に奔走した時の苦労がきっかけだったという。

 日航機墜落事故の身元確認は、現場で発見された歯のエックス線写真と全国の歯科医などから取り寄せたエックス線写真を、目視で1枚ずつ照らし合わせて行われた。

 小菅さんの父親の篠原瑞男さんは高崎市内の歯科開業医で、事故では警察歯科医として無数の歯のエックス線写真を見比べた。事故で亡くなった歌手の坂本九さんの歯型の確認もしたという。

 今年64歳で急逝したが、生前、小菅さんによく「気の遠くなるような作業が続いたが、少しでも早い身元確認が歯科医が遺族のためにできるせめてものこと」と話した。小菅さんは尊敬する父親の後を継ぐべく歯科大で学び、卒業後の1999年から身元確認システムの研究を始めた。

 エックス線写真は一枚一枚撮影角度が違ったり、ゆがみがあったりして、自動照合は困難とも言われた。そこは、画像のゆがみなどを自動補正し、類似性の自動検出法を研究する東北大学大学院情報科学研究科の青木孝文教授(45)(情報工学)の協力で解決し、2006年にシステムは完成した。

 大規模災害時に損傷の激しい遺体の身元確認を迅速化できるほか、犯罪捜査や全国で発見される身元不明の遺体の特定にも応用できるという。昨年の警察歯科医会の全国大会で「作業効率が飛躍的に向上する」と注目され、実用化を目指し、日本歯科医師会が「日本法歯科医学会などとも連携し、IT化を促進したい」と試験運用の準備を進めている。

 小菅さんは「身元確認にITを導入すれば、作業効率がずっと上がるはず。早く身元確認できれば、早く遺族の元に遺体を返すことができる。それも私たちの重要な使命だと思います」と話している。

2010.09.01 読売新聞 新潟版に記事掲載されました

歯のX線写真自動照合 県歯科医師会実用化後押し
読売新聞(2010.8.11)

 日航機事故時身元確認に苦労 亡父の姿開発きっかけに

 身元不明の遺体の確認を迅速化するため、生前に撮影された歯のエックス線写真を電子画像でデータベース化し、遺体の歯の画像と自動照合するシステムが、実用化に向けて動き出そうとしている。開発者の一人は群馬県高崎市の歯科医小菅栄子さん(38)。警察歯科医を務めた亡父が25年前の日航機墜落事故で身元確認に奔走した時の苦労がきっかけだった。研究に注目した新潟県歯科医師会が昨秋、警察歯科医会の全国大会でテーマに取り上げ、導入の機運が高まった。

 日航機墜落事故の身元確認は、現場で発見された歯のエックス線写真と全国の歯科医などから取り寄せたエックス線写真を、目視で1枚ずつ照らし合わせて行われた。小菅さんの父親の篠原瑞男さんは高崎市内の歯科開業医で、事故では警察歯科医として無数の歯のエックス線写真を見比べた。事故で亡くなった歌手の坂本九さんの歯型の確認もしたという。 今年64歳で急逝したが、生前、小菅さんによく「気の遠くなるような作業が続いたが、少しでも早い身元確認が歯科医が遺族のためにできるせめてものこと」と話していた。小菅さんは父親の背中を追って歯科大で学び、卒業後の1999年から身元確認システムの研究を始めた。

 エックス線写真は一枚一枚撮影角度が違ったり、ゆがみがあったりして、自動照合は困難とも言われた。しかし、画像のゆがみなどを自動補正し、類似性の自動検出法を研究する東北大学大学院情報科学研究科の青木孝文教授(45)(情報工学)の協力で課題を解決し、2006年にシステムを完成させた。 大規模災害時に損傷の激しい遺体の身元確認を迅速化できるほか、犯罪捜査や全国で発見される身元不明の遺体の特定にも応用できるという。 研究成果は、米国の学会で高い評価を得たが、日本での関心は低かった。新潟県歯科医師会が昨年11月、警察歯科医会の全国大会のテーマにしたことが転機となった。「作業効率が飛躍的に向上する」と注目され、実用化を目指し、日本歯科医師会が「日本法歯科医学会などとも連携し、IT化を促進したい」と試験運用の準備を進めている。

 県歯科医師会は独自に、この研究に関する検討チームを発足させており、「強力にバックアップしたい」とし、日本歯科医師会にも働きかけを続ける方針だ。

 小菅さんは「身元確認にITを導入すれば、作業効率がずっと上がるはず。早く身元確認できれば、早く遺族の元に遺体を返すことができる。それも私たちの重要な使命だ」と話している。

2010.09.01 上毛新聞に記事掲載されました

父の遺志を継ぎ 今年も御巣鷹に
上毛新聞(2010.8.13)

 「父の思いと一緒に登った。」
高崎市上中居町の歯科医、小菅栄子さん(38)は、長男の優哉君(10)、長女の美優奈さん(7)と一緒に慰霊登山した。事故の犠牲者の身元確認に携わった歯科医で父の篠原瑞男さんと毎年、御巣鷹の尾根に登っていたが、瑞男さんが今年5月に病気で亡くなり、親子2代での慰霊登山となった。

 栄子さんは、父にあこがれて歯科医になった。「初めて尾根に登ったのは約20年前。現場を見て、遺族のために何か役に立ちたい」。
そんな強い思いから、身元確認システム研究を始め、エックス線写真を利用したパソコンでの身元確認システムを日本で初めて開発した。

 父に事故の話を聞き、今は子供たちに語り継いでいる。「子供たちには事故現場で何か感じ取ってもらいたい。父もそう思って私を尾根に連れてきたんだと思う」と話し、父に思いをはせていた。

2009.05.07 身元確認支援システムについて、全国保険医新聞に掲載されました

「歯科X線画像と個人識別」
警察も注目の研究会

全国保険医新聞(2009.04.05)

 群馬・長野県境の山中に日航ジャンボ機が墜落してまもなく四半世紀を迎えるが、遺体の身元確認に協力した群馬の医師・歯科医師たちにとって、あの日々はいまだ記憶に新しい。

 身元確認作業の迅速化・効率化を追求し、歯のX線画像から身元を特定するコンピュータシステムが、県検視警察医の小菅栄子氏(高崎市・篠原歯科医院勤務)らによって開発された。

 2月19日、県生涯学習センターで開催した群馬県保険医協会の研究会「歯科X線画像と個人識別」には、102人が参加した。なかでも目を引いたのは、鑑識などの警察関係者が会場の半数近くを占めたことだ。マスコミも5社が取材し、群馬ならではの関心の高さを見せた。

 小菅氏は、現在の災害・事故の分類と身元確認技術、歯科X線撮影の現状を報告し、自動照合技術について説明した。

 また身元確認における歯科情報の重要性とデータベース化を訴え、「日本は大災害・身元確認のための社会基盤が欠如しており、それを補完するためには大規模な生前データベースを構築できる歯科情報が重要」と強調した。

2009.05.07 身元確認支援システムについて、群馬保険医新聞に掲載されました

盛会だった2月の研究会
警察医・小菅栄子先生が新情報システムを紹介

群馬保険医新聞(2009.03.15)

 174回 歯科X線画像と個人識別 2月19日(木)

 日航ジャンボ機墜落事故から23年が経過した。過酷な状況下、遺体の身元確認のため3ヶ月間、延べ約2800人の医師・歯科医師・看護師が携わったことは記憶から消えることはない。遺体の損傷が激しく、身元確認には多大な労力・時間を費やした。

警察関係者も注目
 身元確認作業の迅速化・効率化を追求し、歯のエックス線写真画像から身元を特定するコンピュータシステムが群馬県の検視警察医・小菅栄子先生(篠原歯科医院勤務)らによって開発された。

 2月19日夜、県生涯学習センターに小菅栄子先生、システム開発に参加した東北大学・青木孝文教授(情報科学研究科)を招き、「歯科エックス線画像と個人識別-身元確認を支援新たな情報システム」と題して研究会を開催、警察や病院関係者を中心に102人が参加した。ここ数年の研究会の中でも極めて参加者が多く、満席の会場は熱気に包まれた。

ひずみを高精度の補正
 
小菅先生は、現在の災害・事故の分類と身元確認技術、歯科エックス線撮影の現状を報告し自動照合技術について説明しました。また、身元確認における歯科情報の重要性とデータベース化を訴え、「日本は大災害時、身元確認のための社会基盤が欠如しており、それを補完するためには大規模な生前データベースを構築できる歯科情報が重要」と強調した。

 青木教授は「位相限定相関法」と呼ぶ画像マッチング技術で、これまで画像照合の自動化を阻んでいたエックス線画像のひずみを高精度に補正することが可能になったと解説。画像間の回転・拡大縮小・平行移動、射影変形、非線形的ひずみ補正など、ハイレベルな技術を紹介した。

データベース化が課題
 
自治体や警察機関から注目される身元確認支援システムだが、両講師とも共通に訴えたのは画像データの収集・管理の問題。データはほしいが歯科医に強制提出を求めるわけにはいかない。「自然にデータが蓄積されていくことが望ましい」と青木教授。システム実用化のための技術は高いレベルにあるが社会にどのように組み込んでゆくかがこれからの課題と言えそうだ。

2009.05.07 身元確認支援システムについて、群馬保険医新聞に掲載されました

歯科情報と個人識別
身元確認を支援する新たな情報システムへ向けて

小菅 栄子(群馬県検視警察医・篠原歯科医院)
青木 孝文(東北大学 大学院情報科学研究科)
全国保険医新聞(2009.04.05)

  1. はじめに
  2.  身元不明遺体の検視作業において、歯科的な所見を用いる方法が特異な有用性を有していることは周知の通りです。しかし、歯牙状態の所見化や生前資料の所見化の大部分は人手に依存せざるを得ないという弱点があります。1985年に、520名もの犠牲者を出した日航機墜落事故においては、総勢約2,800名の医師・歯科医師・看護師らが、過酷な環境で損傷の激しい遺体の検視・身元確認に携わり、献身的な貢献をされたことは記憶に新しいところです。
    最近では,阪神・淡路大震災(犠牲者6,437人)、スマトラ島沖地震(犠牲者22万人以上)、四川大地震(犠牲者7万人以上)、米国同時多発テロ(犠牲者2,998人)など、桁違いに大規模な災害・事故・事件が頻発しています(図1)。また、現在、発災が危惧されている東海・南海・東南海連動型地震においても、2万人以上の犠牲者が予想されています。万が一の緊急事態に、私たちの社会を『身元不明社会』にしないために、遺体の大量検視の問題をタブー視することなく、自治体・警察・医師・歯科医師が一体となって抜本的な対策を打ち出す必要があるのではないでしょうか。
    このような状況を背景として、私たちのグループでは、生前の歯科情報のデータベース化について具体的な方策を検討するとともに、最先端の情報検索技術を駆使して遺体の身元確認作業を支援する新たな情報インフラを創出することを提案しています。



    図1 災害・事故の分類と必要となる身元確認技術

  3. 歯科情報のデータベース化
  4.  さて、本稿では、『歯科情報』として、①歯科所見(デンタルチャート)や治療記録などのテキストデータ、ならびに、②口内法エックス線画像などの各種の画像データを想定します。これらの情報は、歯科医院の日常的な診療行為の中で自然に蓄積されるため、その収集が技術的には容易です(ただし、プライバシーに係る個人情報であるため、何らかの形で患者本人の同意を得る必要があります)。また、歯科情報は、最近、身元確認の決め手として注目されているDNA情報とは対照的に、一般市民にとってデータベース化に対する抵抗感が少なく、身元確認のための大規模な生前データベースを構築できる、ほぼ唯一の生体情報といっても過言ではありません。このことは、これまで、専門家の間でも十分に認識されていなかったのではないかと思われます。
    いずれにしても、歯科情報は、犠牲者とその家族を結びつける『最後の絆』として、また、『社会の財産』として、組織的に保全を図っていくという発想の転換が必要です。歯科医院の廃業や被災、情報システムの故障、法定保存年限の経過などによって貴重な歯科情報を散逸させないための対策を早急に打ち出すことが求められます。

  5. 歯科情報に基づく身元検索技術
  6.  まず、犠牲者の候補が特定できる、閉鎖的な災害・事故・事件を考えます。もし、歯科情報データベースが利用可能になれば、候補者の歯科情報を迅速に入手することができ、身元確認作業の効率化を図ることができます(『情報提供機能』)。一方、これとは逆に、新たな機能として、遺体の歯牙特徴を手がかりにした該当者の検索も可能になります。これは、犠牲者の候補が特定できない開放的な災害・事故・事件において、大きな威力を発揮すると期待されます(『身元検索機能』)。以下では、この身元検索の技術について、いくつかの可能性を考えてみましょう。
    歯科情報のうち、①の歯科所見や治療記録などのデータは、これまでも身元確認の判断材料として用いられてきました。テキストデータであるために軽量であり、照合アルゴリズムも単純であるため、コンピュータによるスクリーニングなどの試みも報告されています。ただし、治療痕が少ない場合や記載ミスがある場合、さらには、所見記載時から経時的な変化がある場合など、身元確認の決め手にならない場合もあります。このため、歯科所見や治療記録は、第一段階のスクリーニング(候補者の絞り込み)に利用するのが適切であると思われます。
    一方、②の歯科エックス線画像(口内法エックス線画像、パノラマ画像など)は、個人を特定する際にきわめて重要になる各種の情報を複合的に含んでいます。例えば、歯や骨などの形態的特徴、治療の方法、補綴物の種類や形状などの情報を多く含むため、少数の画像でも個人識別の決め手となる場合も少なくありません。しかも、歯科エックス線画像は、我が国において年間9千万枚以上が撮影されており、治療の履歴があればほぼ確実に残されている貴重な客観資料です。これが、確実に保存・参照できるようになれば、身元確認の迅速化・高信頼化という観点からきわめて大きなインパクトを与えます。
    しかし、これまで、エックス線画像の照合は人手によって行われており、コンピュータによる自動照合は困難でした。これに対して、私たちのグループでは、「位相限定相関法」と呼ぶ超高精度画像マッチング技術に基づいて、エックス線画像に含まれるひずみを高精度に補正しながら自動照合する手法を提案しています(図2)。これは、画像の膨大な情報量を活用した、より精密な第二段階のスクリーニングの可能性を初めて示したものです。実際には、①の歯科所見や治療記録と②の歯科エックス線画像を複合的に用いることで、高度な身元検索が実現できると期待されます。


    図2 位相限定相関法に基づく超高精度エックス線画像照合

  7. まとめと将来展望
  8.  身元確認支援システムの構築における主要な課題は、歯科医院に存在する情報をいかにしてデータベースに登録するかということです。いわば、『デンタルID登録制度』とも呼称すべき、新たな制度を検討する必要があります。患者の同意のもと、歯科医師にとって、できるだけ簡便な方法で、自然にデータが蓄積されるような手法が求められます。例えば、当初は、通常の診療業務を通して蓄積されるレセプト情報を活用するなど、すでにあるものを利用することも検討に値します。このような公共性の高い基盤的社会サービスを、歯科医師自身が、職業の尊厳と責任をもって企画・立案していくことが、新しい時代の社会貢献の一つのかたちになるのではないでしょうか。


2009.03.19 静岡新聞に記事掲載されました

歯科情報で身元確認
新居 個人識別法で講演会

静岡新聞(2009.02.06)

 新居署は5日、新居町民センターで「個人識別法に関する特別講演会」を開いた。歯科情報を使った、大規模災害時などにおける身元確認システムの可能性について歯学博士の小菅栄子さんらが講演した。

 群馬県検視警察医を務める小菅さんは「大規模災害を想定した口内法エックス線画像による個人識別」について話した。小菅さんは、大規模災害時の身元確認について迅速化と効率化が必須であるとし、歯科情報の有用性を示した上で「歯科情報は、大規模な生前データベースを構築できる唯一の生体特徴」と指摘。「コンピューターによる歯科エックス線画像の照合技術が実用化されれば、身元確認支援システムを構築することも可能になるだろう」と語った。

 また、口内エックス線画像による個人識別を可能にする技術的背景について、東北大大学院の青木孝文教授が説明した。

2009.03.19 中日新聞に記事掲載されました

早期身元特定へ「歯型DB化を」
新居で講師が提唱

中日新聞(2009.02.06)

 多くの犠牲者を伴う大規模災害の発生時に、歯のエックス線写真を身元特定に役立てる新システムについて考える講演会が5日、新居町民センターで開かれた。

 システム構築への理解を広めようと、新居署が開催。群馬県検視警察医の小菅さんと東北大学大学院の青木孝文教授が講師を務め、警察や、消防、防災、行政、歯科医師会などの約250人が参加した。

 新システムは、生前に収集したデータベース(DB)化した歯科情報と、遺体の歯のエックス線写真を照合する方法。パソコンを使って一人数秒で判別でき、作業効率が飛躍的に向上するという。日航ジャンボ機墜落事故(1985年)で遺体の身元確認に尽力した父親の影響で、小菅さんが開発に携わった。

小菅さんは、大規模な身元確認作業のための社会基盤の未発達を指摘。歯科情報は収集される抵抗感が指紋より低いことなどメリットも解説し、「歯科情報は犠牲者と遺族をつなぐ最後のきずなであり、社会の財産」とDB構築の必要性を訴えた。

青木教授は、DB構築に向けた制度設計と、実用化のための最先端技術を披露し、照合の具体的な手順を紹介した。

ページの先頭へ戻る