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2010.09.01 産経新聞に記事掲載されました

「もっと迅速に出来れば」
産経新聞(2010.08.08) 毎年、「御巣鷹の尾根」への慰霊登山を続ける女性がいる。高崎市内で歯科医院を開業する小菅栄子(38)だ。小菅の父、篠原瑞男は歯科医師として当時、遺体の確認作業に携わった。

  気温が40度にも達する暑い夏場の体育館で、父は連日、「早く遺族の元に返してあげたい」と次々に運び込まれる遺体と向き合った。

  当時、中学生だった小菅は毎晩、腐臭を染み込ませて帰宅する疲れた父の背中に「歯科医の使命感を垣間見た」という。

  自らも歯科医師の道に進んだ。
父と毎年、慰霊登山を続ける中で、ある考えが頭をよぎり始めた。
  「乗客名簿が残されている旅客機でさえ身元の確認には約2カ月半を要した。名簿がなければどうなるのか」

 確認作業には、遺体の歯一本一本の状態を観察、記録して生前の資料と照合する手作業を踏むが、「もっと迅速に確認できれば、遺族の負担も減る」。
 コンピューター技術を身元確認に取り入れ、生前と死後のレントゲン写真を自動的に照合させる研究を約10年前から始めた。
X線の照射角度によって画像にひずみが生じ、生前と死後の歯型の画像を一致させるのは簡単ではない。それでも、約3年前に東北大の青木孝文教授と協力。指紋照合などに応用されている手法を取り入れ、技術は着実に進歩している。
  小菅は「事故から四半世紀。コンピューター技術も大きく進歩し、性能も上がった。7割くらいは完成しつつある」と話す。

  8年前、父らとの慰霊登山で、ある女性を知人から紹介された。女性は高浜雅巳機長=当時(49)=の妻(66)だった。
  高浜機長の遺体は歯が5本だけしか見つからなかった。「それ(5本の歯)を渡されても…。大事に供養はしましたが、『本当に主人なのか』といまだに納得はできていません」。妻は事故から17年間、抱え続けた心情を打ち明けた。
  小菅は「17年も苦しめていたなんて…。歯型は確実性から『一番理解される』と思っていた。歯科医におごりがあることを痛感させられた」と語る。
  後日、父は、機長の妻を自宅に招き、歯型鑑定の正確性を説明。「これで胸のつかえが取れた」。妻は涙を流したという。
  事故を知る父は今年5月に他界。今年の慰霊登山は、少し違う気持ちで臨む。
  災害やテロ。名簿もない人が突然巻き込まれる大惨事も予想される。技術向上に加え、各医院に散逸するレントゲンなどの情報を集める制度の確立も求められている。小菅はこう言う。「事故を経験した父ら先輩たちの志を私たちの世代が継ぐときが来た」

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