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2008.08.29 静岡新聞に記事掲載されました

県都の備えは…-2008・9・1 県総合防災訓練-
【2】進まぬ遺体処理計画 タブー視せず対応急務

静岡新聞(2008.8.29)

 県の第3次被害想定は冬の早朝に突然東海地震が発生した場合、県内で約5800人が死亡するとしている。70万人を抱える静岡市の犠牲者は約1370人で県内死者数の4分の1に迫る。東海地震説の提唱から30年余。タブー視されてきた遺体処理の問題が、転機を迎えている。

  「一刻も早く家族の元に帰してあげたい」。23年前に群馬県で起きた日航ジャンボ機墜落事故を教訓に、歯のエックス線写真を使った身元確認システムを開発した群馬県警察医の歯科医師小菅栄子さん(37)。今年から東海地震が想定される本県の協力でシステムの実用化を目指している。

  日航機墜落事故は犠牲者520人。損傷が激しく、身元確認が難航した。小菅さんが東北大と開発したのは遺体の歯のエックス線写真を生前の写真と自動照合、即座に身元を特定する世界初のシステム。遺族への引き渡しを早め、歯科医師の負担も大幅に軽減する。

  小菅さんは「身元確認の遅れは遺族の経済的な再建も遅らせる。家族なのに貯金は下ろせず、保険金ももらえない。大規模災害時にはきっと社会問題になる」と訴える。

  平成7年の阪神・淡路大震災では遺体処理の問題が表面化。ひつぎやドライアイス、火葬場などが不足した。国は9年に「広域火葬計画」策定指針を作り、市町村の遺体処理計画策定を促した。10年以上たつが、県内で策定済みは10市町にとどまる。

  「今でも禁忌される部分があり、市町の動きを鈍らせている」(県防災局幹部)。静岡市を含む残りの市町は本年度中の策定を目指すが、先行きは不透明なままだ。

  多くの津波死者を出したスマトラ沖地震を視察した防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実さん(57)は「生存者の対応が優先だという考えで、行政は遺体処理の問題を十分に受け止めてこなかった」と指摘。「感染症の発生や遺族の心的ケアを考えれば、発災直後から人命救助と並行して処理すべき問題。小菅さんらの活動が今までのタブーに風穴をあけるかもしれない」と期待する。
  小菅さんは毎年、墜落事故があった8月12日に御巣鷹に登っている。今年も慰霊碑を前に実用化への思いを強くした。「多くの死を無駄にしないためにも、私たちは大規模災害時の遺体処理の問題から目を背けてはいけないと思うんです」

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