歯型照合システム初開発 群馬の歯科医 身元確認大幅短縮 産経新聞(2008.01.8)
歯のレントゲン写真を使った遺体の身元確認をパソコンを使って大幅に短縮するシステムを、群馬県高崎市の歯科医師、小菅栄子さん(36)らが日本で初めて開発した。実用化されれば大規模災害や航空機事故の際の身元確認が迅速化するほか、行き倒れの身元不明遺体の特定にも威力を発揮しそうだ。
遺体の身元確認は、指紋による照合がシステム化されているが、歯によるものは、遺体と生前のレントゲン写真を目視で比べるため時間がかかる。歯のレントゲン写真は、同じ部位を撮影しても照射角度などで微妙な違いが生じるため、パソコンによる正確な判別は難しいとされてきた。
小菅さんは、画像の類似性を数値化する「位相限定相関法」の技術研究をしている東北大大学院情報科学研究科の青木孝文教授の研究室と協力し、精度を高めることに成功した。
新技術では、60人分の実験で、目視だと3600回の照合作業が必要だったのに対し、180回で済んだという。絞り込む作業にかかった時間もわずか3.6秒だった。
昨年11月に米シカゴで開かれた北米放射線学会でも、約4000件の研究の中から記者発表の機会を得た14件に選ばれ、CNNテレビでも研究成果が放映された。
小菅さんの父、篠原瑞男さん(62)も歯科医で、昭和60年の日航ジャンボ機墜落事故の遺体確認の苦労を体験。小菅さん自身も御巣鷹山の慰霊登山で遺族と交流するうち、照合技術の開発を決意したという。
新技術の実用化には警察当局も期待しており、ソフト開発企業との交渉も本格化している。
記事は産経新聞ウェブサイトでご覧いただけます。http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/gunma/080108/gnm0801080308003-n1.htm
2007年11月27日、アメリカ・シカゴにて開催されました、RSNA2007(北米放射線学会)のプレスカンファレンスにおいて、当院歯科医 小菅栄子らが開発中の「災害時犠牲者のID確認自動化システム」について発表・取材を受けました。
ポスター発表の様子
この発表の内容は、CNNでもとりあげられました。
発表内容のレポートはこちらからご覧いただけます。 ■RSNA2007 インターネットレポートhttp://www.wolnsokuho.com/t_12/index2.html 他、現地の各メディアにも取り上げられました。
・AFMC(英文)http://www.afmc.org/HTML/health_news/article_display.aspx?ID=610210
・AHN(英文)http://www.allheadlinenews.com/articles/7009292596
・AOL Body(英文)http://body.aol.com/news/health/article/_a/new-automated-system-can-id-disaster/n20071127140309990024
・brisbanetimes(英文)http://news.brisbanetimes.com.au/japanese-dentists-unveil-highspeed-dental-id-system/20071128-1da9.html
・Chicago Tribune(英文)http://www.chicagotribune.com/technology/chi-mon_notebook_1203dec03,1,1820296.story
・CNN(英文)http://www.cnn.com/2007/HEALTH/11/28/dental.technology/
・Daily Bulletin (RSNA 2007)(英文 PDF4MB)※5ページ目に掲載されていますhttp://rsna2007.rsna.org/V2007/documents/DailyBulletin/wednesday2007.pdf
・Health Imaging(英文)http://www.healthimaging.com/content/view/8810/118/
・HON News(英文)http://www.hon.ch/News/HSN/610210.html
・innovations report(英文)http://www.innovations-report.de/html/berichte/studien/bericht-99231.html
・IOL Technology(英文)http://www.ioltechnology.co.za/article_page.php?iSectionId=2890&iArticleId=4149212
・Jayed.us(英文)http://jayed.us/2007/11/27/japanese-dentists-unveil-high-speed-dental-id-system/ ・Japan Today(英文)http://www.japantoday.com/jp/news/422177
・Manila times(英文)http://www.manilatimes.net/national/2007/nov/29/yehey/techtimes/20071129tech2.html
・medicexchange.com(英文)http://www.medicexchange.com/mall/departmentpage.cfm/MedicExchangeUSA/_81696/3222/departments-contentview
・MedicineNet(英文)http://www.medicinenet.com/script/main/art.asp?articlekey=85489
・MSN Singapore News(英文)http://news.sg.msn.com/topstories/article.aspx?cp-documentid=1118318
・PCQuote(英文)http://www.pcquote.com/stocks/newswire/4704131/?tagged=newswire
・PhysOrg.com(英文)http://pda.physorg.com/lofi-news-system-identification-mass_115383579.html
・prnewswire.com(英文)http://www.prnewswire.com/cgi-bin/stories.pl?ACCT=109&STORY=/www/story/11-27-2007/0004712161&EDATE=
・ScienceDaily(英文)http://www.sciencedaily.com/releases/2007/11/071127105531.htm
・smh(英文)http://www.smh.com.au/news/TECHNOLOGY/Japanese-dentists-unveil-highspeed-dental-ID-system/2007/11/28/1196036933475.html
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・Yahoo! Canada(英文)http://ca.news.yahoo.com/s/afp/071127/technology/us_science_medicine
・Yahoo! News(英文)
遺体の身元確認、スピードアップ 高崎の歯科医、小菅さんら開発 歯のレントゲン写真使い 毎日新聞(2007.10.23)
歯のレントゲン写真を使った遺体の身元確認のスピードを大幅に短縮する技術を高崎市高関町の歯科医師、小菅栄子さん(36)らが開発した。1枚ずつ写真照合していた作業がパソコン上で瞬時に判別できる。「少しでも早く遺体を遺族に帰すには身元確認の迅速化が不可欠」。小菅さんは日航ジャンボ機墜落事故(85年8月)の被害者遺族との交流から、開発を決意したという。【鈴木敦子】
自動識別ソフトは生前に撮影したレントゲン写真と遺体のものを照合する方法で、大量に取り込んだ写真から治療痕などが一致する写真を瞬時に選び出す。60人分の実験では、わずか3.6秒で照合。身元確認の現場では目視で2枚以上の写真を比較し選別する方法しかなく、同じ条件では計算上3600回の照合が必要になる。
これまでパソコンソフトによる照合は指紋で実用化されている。だが、歯は同じ部位を撮影してもX線の照射角度などで長さや形状に微妙な違いが生まれ、パソコン上で認識できなかった。小菅さんは約10年前から研究を始め、精度向上に力を入れてきた。昨年、画像の類似性を数値化する「位相限定相関法」の研究成果を持つ東北大と提携。微妙な違いを補正する技術を得て精度をほぼ100%に高めることができた。
520人の犠牲者を出した日航機墜落事故では約15%の78遺体が歯で身元が確認された。確率統計的には歯3本が一致すれば個人の特定ができ、損傷が激しく指紋採取が困難な遺体には有効な手段という。小菅さんは11月に米国での放射線学会で新技術を発表する。実用化されれば、全国の行方不明者と身元不明遺体との照合などにも活用できる。
歯のエックス線写真による身元確認システムの開発 篠原歯科医院 小菅栄子
はじめに
私は、歯科大学を卒業後、高崎の父の診療所で勤務医をしながら、大学の放射線学教室に所属し、歯のエックス線写真による身元確認の研究を続けております。平成12年からは、群馬県検視警察医をさせて頂いております。
22年前に、日航ジャンボ機が上野村の御巣鷹山の尾根に墜落し、多くの方が犠牲になりました。その当時、父が犠牲者の身元確認に携わったことから、今でも8月12日になるとスタッフと共に御巣鷹山慰霊登山を続けています。最近では、御遺族が年々歳をとられていくのに心が痛み、御高齢になった御遺族が急な坂を登られる姿には涙が出ます。その中で、数年前に偶然出会った御遺族の方から、歯による身元確認への疑問を打ち明けられる出来事がありました。これがきっかけとなり、次第に大規模災害時に役に立つような身元確認システムを作りたいという強い使命感を感じるようになりました。
現在、全国で歯科医院は65,000件あると言われています。これらの医院では、歯科用の小さなエックス線写真を撮影するための装置が必ず設置されています。また、1999年の歯科エックス線写真に関する実態調査によると、年間約80,730,000枚ものエックス線写真が全国で撮影されているようです。日本では国民歯科受診率が高いため、多くの人が歯科医院にてエックス線写真を撮影するとともに何らかの治療を受け、歯科カルテに治療内容が記載されています。これらの事を総合して考えると、歯のエックス線写真による身元確認システムが自動化されれば、大規模災害時などのスクリーニング(選別作業)に使用することが出来るので、災害現場で身元確認作業にあたる歯科医の負担軽減と時間短縮が出来るのではないかと考えました。
今回は、これまでに進めてきた研究の一部を皆様に紹介したいと思います。まだ実験的なシステムを開発している段階ではありますが、歯のエックス線写真による身元確認システムとして、どの程度の性能(識別精度や処理スピードなど)を有しているかなどを紹介します。
歯のエックス線写真を用いた身元確認システム
大規模災害時に指紋や歯牙所見を用いて身元確認を行う方法は、時間と精度の両面で非常に有用な方法です。指紋を使った身元確認は、すでにコンピュータを用いた自動識別システムが開発されています。一方、歯のエックス線写真を使った身元確認は、現在でも専門家が膨大な量のエックス線写真の中から一致する写真を手作業で探して行っています。大きな災害の場合は、犠牲者の損傷も激しいため、顔や指紋などを使って身元確認をすることが難しくなります。このような場合は、歯のエックス線写真を使った身元確認が重宝されます。ただし、現在までに自動識別システムが開発されていないために、災害の規模が大きくなるほど、膨大な作業時間を必要とするだけでなく、誤認の危険性も増大する可能性があります。そこで、私は、歯のエックス線写真を用いた身元確認の作業時間の短縮と識別性能の向上のために、コンピュータを用いた自動識別システムの開発を目的として研究を進めています。
現在までに、歯のエックス線写真を用いた身元確認では、撮影時に生じる幾何的な変形(位置ずれ、回転、拡大・縮小、ひずみなど)が原因で、自動的に照合することは難しいとされてきました。撮影の度に歯科医師が装置を配置するためエックス線の照射角度が異なってしまうことや、指でフィルムを押さえつけるためフィルム自体が変形してしまうことが原因で、エックス線写真に幾何的な変形が生じます。開発したシステムでは、このような変形を正確に補正し、本人であるかを正確に判断するために、位相限定相関法 (Phase-Only Correlation) を利用しました。位相限定相関法は、すでに、バイオメトリクス認証(顔、指紋、虹彩、筆跡などを用いた生体認証)で有効性が確認されています。位相限定相関法の特徴は、画像と画像の位置を正確に合わせることができることと、画像と画像がどれくらい類似しているかを数値で正確に表すことができることです。
続いて、開発したシステムについて詳細を説明します。図1は、現在までに開発した歯のエックス線写真による身元確認システムのブロック図です。開発したシステムは、身元が不明な方の(検視時の)エックス線写真と、身元がわかっている(生前の)エックス線写真を格納したデータベース全体を照合し、類似度の高い候補を 絞り込み、最終的に専門家が検証します。具体的には、 〔i〕エックス線写真のコントラストを強調する前処理 〔ii〕画像間の位置や角度、ひずみなどを補正する処理 〔iii〕類似度を求める処理 〔iv〕専門家による検証 の4ステップで構成されています。ステップ〔i〕から〔iii〕までは、コンピュータを使って自動的に処理が行われ、データベース内から候補となる歯のエックス線写真のリストを作成します。ステップ〔iv〕は、専門家が検視時の画像(入力画像)と候補となる画像(ステップ〔i〕から〔iii〕で作成されたリスト)とを照合します。身元確認は間違いの許されない正確な照合が求められますので、最終的な判断は専門家が行います。
【図1】1歯のエックス線写真による身元確認システム
それぞれの処理について説明します。
〔i〕エックス線写真のコントラストを強調する前処理 歯のエックス線写真は、撮影のタイミングによりエックス線照射量が異なるため、ぼけてしまうことが多いです。診療には問題ありませんが、コンピュータで処理をするときには、このようなぼけにより画像処理の精度が下がってしまいます。そこで、前処理として画像のコントラストを強調します。図2の(b)がコントラスを強調した例になります。
〔ii〕画像間の位置や角度、ひずみなどを補正する処理 この処理は、(a)拡大縮小、回転、平行移動の補正、(b)ひずみの補正、(c)共通領域の抽出の3ステップで構成されています。
(a)正確に類似度を求めるためには、正確かつ高精度に画像間の拡大縮小と回転、平行移動を補正する必要があります。開発したシステムでは、位相限定相関法を用いて、正確に補正しています。図2の(c)が位置を合わせた結果になります。
【図2】歯のエックス線写真の位置合わせ: (a)入力画像(左)と データベースに格納されている登録画像(右) (b)コントラストを強調した画像 (c)位置や角度を補正した後の画像
【図3】歯のエックス線写真のひずみ補正: (a)左の画像にある基準点に対応する点を右の画像から求めた結果 (b)得られた対応関係より作成したひずみモデル (c)ひずみ補正後の画像
(b)画像間のひずみを補正します。撮影のたびに、エックス線の照射角度とフィルムの角度が異なってしまうため、画像間にひずみ(歯が伸びたり縮んだりすること)が生じてしまいます。ひずみが生じていると、同じ歯を撮影したとしても長さが異なってしまうので、誤って違う人の歯と判断してしまいます。そのために、識別精度が著しく低下してしまう恐れがあります。そこで、画像を小さなブロックに分け、位相限定相関法を利用してブロック間の対応関係を求め、その関係から得られる情報を用いてひずみを補正します。図3がひずみ補正の様子になります。
(c)画像間の共通領域を抽出します。画像間で重なっていない領域は無相関なノイズとして働くので、類似度を正確に求めるために画像間の共通領域を抽出します。
以上の処理により位置や角度、ひずみを補正し、共通領域を求めた例が図3の(c)になります。どれくらい正確に位置合わせされているかを調べるために、図4のように位置合わせした画像の差をとってみました。画像がきれいに重なっているので、治療した部分がはっきりと表れています。
〔iii〕類似度を求める処理 得られた共通領域に対して位相限定相関法を用いて類似度を求めます。位置や角度、ひずみが補正され、共通領域を抽出しているので、同じ人のほぼ同じ位置を撮影したエックス線写真であれば、鋭い相関ピークが現れます。もし違う人のものであれば、位置などを合わせたとしてもピークが現れません。そこで、開発したシステムでは、このピークの高さを類似度として用いています。ピークは、最大値が1、最小値が0であることより、1に近い値となれば同じ人であると言えます。図5が位相限定相関法を用いて画像の類似度を評価した例になります。図5の(a)が同じ人の場合、(b)が違う人の場合となります。
【図4】位置合わせの結果: (a)ひずみ補正をした後の画像 (b)重ね合わせた結果
【図5】位相限定相関法による 画像の類似度評価: (a)同じ人の場合 (b)違う人の場合
これらの処理を通して、身元が不明な方の画像(検視時の画像)とデータベース内にある全ての画像とを照合し、類似度の高いものから候補としてリストアップします。
〔iv〕専門家による照合 最後の処理は、専門家による照合になります。ステップ〔i〕から〔iii〕までのコンピュータを使った処理により、自動的に候補リストが出力されます。専門家は、身元が不明な方の画像(検視時の画像)とデータベースに入っているすべての画像を比較するのではなく、候補リストにある画像ペアのみを比較し、最終的な照合結果を作成します。
以上が開発したシステムの処理の説明となります。本システムの中で、コンピュータによる処理(ステップ〔i〕から〔iii〕までの処理)は、1組あたり約4秒です。まだ発展途上のシステムですので、最終的にはもっと早く処理することができるシステムになる予定です。
性能評価
開発したシステムの性能を評価した実験について説明します。性能評価では、生前・死後のエックス線写真の代わりに、歯科治療の前後で撮影されたエックス線写真を使いました。生前・死後では歯が欠けていたり、抜け落ちていたりする場合があります。一方、治療前後でも歯を削ったり、金属を埋め込んだりするため、照合するには同様の難しさがあります。実験で使用した画像は、60人から撮影した治療前後のエックス線写真で、合計で120枚になります。 実験は、この60組のエックス線写真のうち、治療前に撮影した写真を生前の(身元がわかっている)画像とし、治療後に撮影した写真を死後の(検視時に撮影した)画像としました。言い換えると、治療前の写真がデータベースに登録されている画像、治療後の写真がシステムに入力される画像ということになります。まず、治療後の写真(死後の画像)を1枚入力し、データベースに格納されているすべての画像60枚と照合します。そして、入力画像に対する候補リストを作成します。次に、別の画像を入力し、同様にデータベースの画像と照合して候補リストを作成します。このように、1対60の照合を入力画像の枚数だけ(60回)繰り返します。合計で3,600回の照合をすることになります。候補リストは、類似度の高い順に候補が並んでいるので、同じ人から撮影した画像の順位が1番高ければ正確に照合したことになります。
図6は実験結果をまとめたグラフになります。横軸は本人画像の順位、縦軸は識別率を示しています。たとえば、照合スコアが1番高かったものには、本人画像が87%含まれています。また、上位3番で識別率が100%になっていることより、候補リストの上位3番目までに必ず本人の画像が含まれていることがわかります。この結果より、専門家は、候補リストにある上位3番までの画像を照合すればいいことになります。システムを利用しなかった場合、専門家は3,600回の照合をしなければなりませんが、システムを利用することで、そのうちの5%を照合するだけでよいことになります。本システムが実用化されれば、身元確認における専門家の作業負担を大幅に削減するとともに、結果が出るまでの時間の短縮や、照合精度の向上も期待されます。
【図6】実験結果
おわりに
今回開発した歯のエックス線写真を使用した身元確認システムは、まだ実験的な段階であり、これからも性能や処理速度、使い勝手などを改善していきたいと考えております。今回、ご紹介させていただいたシステムは私が進めてきた研究の一部ではありますが、皆様の頭の片隅に覚えておいていただければと思っております。
群馬県は、日航機墜落事故というとても悲惨な大規模災害を経験しました。悲しい災害を胸に刻んだ群馬県から、このシステムを全国に普及させたいと思っております。
今回、開発を進めている身元確認システムを紹介するにあたり、貴重なスペースを頂けたこと、また、ご協力下さった方々に心より深謝申し上げます。このシステムを実用化するために、これからも惜しみない努力し続けていくことを皆様にお約束し、お礼の言葉と代えさせていただきたいと思います。
なお、本システムは、神奈川歯科大学顎顔面診断科学講座の鹿島勇教授の研究グループと東北大学大学院情報科学研究科の青木孝文教授の研究グループの協力によって得られた成果です。これまでに開発したシステムについて、今年の11月にアメリカのシカゴで開催される世界最大規模の放射線に関する国際会議であるRSNA (Radiological Society of North America) 2007 において発表することが決まりました。毎年シカゴで開催されているこの会議には、全世界から医学・薬学・物理学・工学などの分野の研究者や大手企業の方々が参加します。参加人数は7万人とも10万人とも言われています。ここで発表することは大変名誉あることですので、日本国内だけではなく世界に向けても本研究を発信していきたいと思っております。
9月26日(水)放送のNHK 首都圏ネットワークという番組の「歯で身元確認最前線 女性歯科医の取り組み」という企画にて、当院の歯科医小菅栄子らの研究が紹介されました。
思い継ぐ娘 歯照合に新技術 朝日新聞(2007.8.21)
災害時に役立てようと、歯のレントゲン写真の照合技術を開発した小菅栄子さん(右は父の篠原瑞男さん)=高崎市上中居町の篠原歯科医院で
高崎市の歯科医師、小菅栄子さん(36)が、大規模災害時の身元確認に役立てようと、歯のレントゲン写真の照合技術を開発した。非常勤講師をしている神奈川歯科大や、東北大の研究室との共同研究で、11月に米国・シカゴで開かれる北米放射線学会で発表する。きっかけは22年前の日航ジャンボ機墜落事故。遺体の身元確認に携わった同じ歯科医師の父、篠原瑞男さん(62)から娘に思いが引き継がれた。
8月12日。墜落現場の上野村の「御巣鷹の尾根」で、「8・12連絡会」事務局長の美谷島邦子さん(60)が小菅さん親子に初めて声をかけ、「いつもありがとう」。毎年登山する二人の姿に気づいたようだった。
事故が起きた夏、篠原さんはレントゲン写真のある部屋と遺体安置所を何度も行き来をしては、身元確認をした。すべて手作業だった。
「風化させたくない」との思いから、医院のスタッフを連れて毎年、慰霊登山を続けてきた。小菅さんも大学卒業後、ほぼ毎年登った。
小菅さんは、電子化でより素早く正確な照合ができると考え、コンピュータープログラムを開発した。身元の分からない人たちの生前の写真をデータベースに登録し、遺体の写真を電子データにして照合、似たものを探し出す。写真にはゆがみや伸縮があるため照合が難しかったが、指紋照合の研究もしている東北大の協力を得て、ひずみの補正に成功した。
小菅さんがこの研究を始めたのは約10年前。事故後に検視警察医になった父に同行して高崎署で検視の様子を見る中で、技術を思いついた。
背中を押される出来事もあった。02年の慰霊登山で、事故機の故高浜雅己機長の妻淑子さんに偶然出会った。淑子さんのもとに帰ってきた「夫」は、5本の歯。だが、本当に夫のものなのか、それまで17年間信じられなかったという。
小菅さんらは、淑子さんを医院に招いて正確さを説明した。歯で身元確認できるのは当たり前と思っていたから、そんな気持ちを抱いた人がいたことがショックだった。同時に遺族の思いをより深く感じた。
歯の照合プログラムは今後も改良を続ける。今は写真1枚の照合に約3・6秒かかり、正確さにも向上の余地がある。
「大切な人を亡くした時に、早く家に連れて帰りたいというのが家族の思い。できるだけ早く完成させたい」
歯のエックス線写真で身元確認ソフト開発 日航機事故遺族の声が後押し 東京新聞(2007.8.19)
十二日に発生から二十二年を迎えた一九八五年の日航ジャンボ機墜落事故をきっかけに、高崎市の歯科医師が歯のエックス線写真による独自の身元確認ソフトを開発した。身元不明者の写真を正確に、早く一致させられるのが特長。十一月に米国シカゴで開催される国際会議で発表する。歯科医師は「大事故の際、多くの遺体を確認せざるを得ないご遺族の心痛を少しでも和らげられれば」と念願している。 (菅原洋)
この歯科医師は同市高関町の歯学博士小菅栄子さん(36)。小菅さんは七年ほど前に県内で初めて女性歯科医師として検視警察医に。父の篠原瑞男さん(62)も歯科医師だ。
篠原さんは日航機事故の際、三日目から約一週間、藤岡市の遺体 安置所に通い詰め、数百体の身元確認に取り組んだ。五百二十人が犠牲となった大事故。この父の姿を見て、当時既に歯科医師を志していた中学生の小菅さんは「歯科医師に身元確認という重要な仕事がある」と知らされた。
十年ほど前に歯科大を卒業すると同時に身元確認ソフトの研究を始め、その当時から父親らとともに「御巣鷹の尾根」に命日の慰霊登山を毎年続けている。
そんな二〇〇二年の慰霊登山で、小菅さんにソフトの開発を後押しするある出来事が。小菅さんらに高浜雅己機長=当時(49)=の妻淑子さんが「夫とされる五本だけの歯が本物なのか、(その当時までの)十七年間悩み続けている」と打ち明けたのが始まりだった。
「歯による身元確認の説明責任が果たされていなかった」と衝撃を受けた小菅さん。小菅さんらは後日、淑子さんを高崎市内の歯科医院に招き、歯による身元確認の確実性を約一時間かけて丁寧に説明した。納得した様子の淑子さんの目から涙があふれる。「ソフトの開発を早く実現させなければ」。その時、小菅さんは固く決意をした。
〇六年からは開発に東北大が協力。同大は画像同士の位置を正確に合わせ、類似性を数値にする「位相限定相関法」で進んだ技術を持つ。生体認証にも多く利用されているこの方法を取り入れ、ソフトの開発は大きく前進した。
小菅さんによると、現在の歯による身元確認は主に写真を一枚ずつ手作業で判断している。開発したソフトはまず、障害となる写真のひずみなどを補正。身元不明者の写真と生前の写真が入ったデータベースを照合し、類似性の高い候補を絞り込む。最後に専門家がいくつかの候補の中から精査する。小菅さんがソフトの精度を確認したところ、例えば三千六百回の照合作業では、うち5%を精査するだけで済む結果が得られた。この開発成果は既に今春、国内で開かれた三つの学会で発表している。
小菅さんは今月十二日の慰霊登山でも淑子さんに会い、ソフトの開発を資料を手渡して報告。「御巣鷹の“昇魂之碑”の前でもソフト開発といういい報告ができた」と感慨を込めている。
歯のX線写真で身元確認 御巣鷹の教訓生かす 上毛新聞:Takatai(2007.8.10) 日航ジャンボ機が上野村の御巣鷹山に墜落して間もなく満22年になる。500人を超える人が犠牲になり、多くの医師や歯科医が犠牲者の身元確認に携わった。その教訓を生かそうと、高崎市高関町の歯科医師、小菅栄子さん(35)は、「歯のエックス線写真による身元確認システム」を開発した。大規模災害時における身元確認がスピーディに行えるとあって、学会などで発表され、関係者の注目を集めている。 小菅さんが同システムの開発に興味を持つようになったのは10年ほど前からで、検視警察医を勤める父親の篠原瑞男(62)さんの影響が大きい。
同市上中居町で歯科医院を開業する篠原さんは、墜落事故の際に身元確認作業に携わった。以来、毎年8月12日に御巣鷹山へ慰霊登山をしている。登山に同行するようなった小菅さんは、偶然出会った遺族から歯による身元確認の疑問を打ち明けられ、大規模災害時に役立つ確認システムを作りたいと考え始めた。 小菅さんは7年前、女性歯科医として県内で初めて検視警察医になった。検視活動を通して生まれた強い使命感が、システム作りへの思いをさらに後押ししたようだ。
負担軽く、時間短縮
指紋や歯による身元確認は、大規模災害時に極めて有用な方法で、既に指紋を用いた自動的な確認システムは開発されている。しかし、歯による身元確認はカルテやレントゲン写真に基づく手作業に頼っており、災害の規模が大きくなるほど作業時間は増え、誤認の危険性も増している。 全国の歯科医院は現在、6万5000を数え、そこで撮影される歯科エックス線写真は年間8000万枚に上る。わが国の歯科受診率は非常に高いことから、エックス線写真による身元確認システムが自動化されれば、災害現場で身元の確認作業にあたる歯科医の負担軽減と時間短縮ができ、照合精度も高まると小菅さんは考えた。
変形補正し正確に
1人でコツコツ研究を続けてきたが、昨年から神奈川歯科大の鹿島勇教授、東北大大学院の青木孝文教授の各研究グループの協力を得て、成果は大きく前進した。 これまで歯のエックス線写真を用いた身元確認では、撮影時に生じる幾何学的は変形(位置ずれ、回転、拡大・縮小、ひずみなど)が原因で、自動的に照合することは難しいとされていた。撮影のたびに歯科医師が装置を配置するため、エックス線の照射角度が異なることや、指でフィルムを押さえ付けることでフィルム自体が変形してしまうためだ。 開発したシステムは、こうした変形を補正し、本人確認を正確にするために、位相限定相関法を利用した。この方法は、画像と画像の位置を正確に合わせることができる上、どれくらい類似しているかを数値で正確に表すことができる。既に、バイオメトリクス認証(顔、指紋、筆跡などを用いた生体認証)で、その有効性が確認されている。 小菅さんは開発したシステムの性能評価をするため、歯科治療の前後で撮影されたエックス線写真60人分、120枚を生前・死後と想定して照合する実験を行った。やり方は、治療後の写真を1枚入力し、データベースに格納されているすべての画像60枚と照合し、入力画像に対する候補リストを作成した。同じように1対60の照合を入力画像の枚数分(60回)だけ繰り返した。 この結果、照合スコアが最も高かったものには、本人画像が87%含まれていた。また、上位3番で識別率が100%になったことから、候補リストの上位3番までに必ず本人の画像が含まれていることが分かった。つまり、システムを利用することで、そのうち5%を照合するだけでよく、実用化されれば確認作業の負担が大幅に軽減されるという。11月シカゴで発表
小菅さんはこのシステムについて、4月から5月にかけて開かれた日本法歯科学会、日本歯科放射線学会、日本法医学会でそれぞれ発表した。また、11月には米国のシカゴで開かれる世界最大規模の放射線に関する国際会議RSNAで発表することになっている。 「まだ実験的な段階であり、これからも性能や処理速度、使い勝手などを改善していきたい」と小菅さんは話す。娘の研究を見守る父親の篠原さんは「地震をはじめ大規模災害がいつ発生するか分からない。その時、開発したシステムは大きな力を発揮すると思う」と言う。 篠原さんは検視警察医としての功績が認められて今年5月、県総合表彰を受けた。そんな父親の背中を見て育った小菅さんの研究成果に期待が高まっている。
アメリカはシカゴで開催される世界最大規模の放射線に関する国際会議、RSNA(Radiological Society of North America) 2007 において、当院の小菅栄子らが開発中の「大規模災害時における歯のX線写真を利用した身元確認システム」の研究発表を行うことが決定いたしました。
この会議は毎年シカゴで開催されており、全世界から医学・薬学・物理学・工学など様々な分野の研究者や大手企業が参加しています。
本研究内容を日本国内だけではなく、世界に向けても発信してまいります。
発表内容の概要をPDFファイルでご覧いただけます。発表内容(英文)→[PDFファイル:81KB]
下記学会にて栄子先生が開発中の「大規模災害時における歯のX線写真を利用した身元確認システム」について発表いたしました。
学会発表情報 2007.4.21 日本法歯科医学会 2007.5.11-12 日本歯科放射線学会 2007.5.17-18 日本法医学会
発表内容の概要をPDFファイルでご覧いただけます。発表内容ポスター→[PDFファイル:1.9MB]